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名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)58号 判決

控訴人

寺尾正雄

右訴訟代理人

中島多門

被控訴人

長谷川谷一

右訴訟代理人

伊藤典男

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決理由一に判示するところは、当裁判所の認定判断と同一であるからこれをここに引用する。

二ところで本件土地の地目は畑であるが、被控訴人はその現況は荒地で農地法にいう農地ではない旨主張し、控訴人は現況においても畑であるとしてこれを争うので、まずこの点につき判断する。〈証拠〉を総合すると、本件土地は、亡長谷川千代が前所有者加藤賢三からこれを買い受けた昭和三八年当時から既に殆んど耕作らしい耕作が施されず、野草が密生しており、荒地と化した状態におかれていることが多かつたが、同三九年末頃、控訴人において占有中の本件土地に、右千代が控訴人に無断で土砂瓦礫を搬入しこれを埋め立てる工事に着工したためさらに一層荒廃したこと、しかし控訴人が右千代に対する立入禁止等の仮処分を得てこれを執行し、さらには同女を相手取り土砂瓦礫の撤去等請求訴訟を提起し勝訴したことにより、同女の埋立工事は中途で阻止され、埋立を免れた本件土地の一部においては控訴人が断続的に耕作をしていることが認められる。

右認定の事実によれば、本件土地は、断続的にもせよ埋め立てを免れた部分において耕作が続けられており、埋め立てのために搬入された土砂瓦礫の撤去請求も認容されているというのであるから、外観上荒廃しているとはいえ未だ耕作の目的に供される土地としての状態を恒久的に失なつたものと断ずることはできない。従つて本件土地は現況においても農地というべきである。

三次に、〈証拠〉及び弁論の全趣旨に徴すれば、亡長谷川千代と加藤賢三間の本件土地の売買については、昭和四二年三月三一日付の四一指令尾農第五―六四五三号をもつて、許可後六ケ月以内に工作物の着工をすることという条件で農地法五条にもとづく愛知県知事の許可があり、同年九月三〇日付の四二尾農号外をもつて右着工期限は六ケ月延期されたが、亡長谷川千代はその所定期限の昭和四三年三月三一日までに工作物を着工するに至らなかつたことが認められる。

右によれば、農地法五条にもとづく亡長谷川千代と加藤賢三間の本件土地売買についての知事の許可は、昭和四三年三月三一日限りその効力を失なつたものといわなければならない。しかし、右の許可は本件土地の所有権移転に関していえば、亡長谷川千代と加藤賢三間の売買による所有権移転の効力を完成せしめる補充行為にすぎず、右売買と離れて独立の効果を生ずるものではない。従つて知事の右許可が失効したとの一事により基本たる右売買が無効となるものではない。右両名間の本件土地の売買が知事の許可の失効により確定的に無効に帰したという控訴人の主張は採用することができない。

四しかるところ、本件土地が昭和四五年一一月二四日公布、同日施行の愛知県規則第一〇七号をもつて、都市計画法七条一項の市街化区域に指定されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、亡長谷川千代の相続人である被控訴人は、昭和四七年八月二〇日本件土地について農地法五条一項第三号の規定による農地転用届出書を愛知県知事に提出し、これが受理され、同知事より同四八年九月一二日付の受理通知書を受け取つたことが認められる。

そうすると、農地法五条は、たとえ農地であつても、市街化区域内に所在するものについては届出のみによつてその所有権の移転をなしうることとしているから、被控訴人は右の届出によつて前記売買にもとづく本件土地所有権の移転を受けたものというべきであり、従つてまた本件仮登記にもとづく本登記手続をなしうるに至つたものというべきである。

五最後に、控訴人の主張する信義則違反の点について検討するに、本件全証拠によるも控訴人主張の事実関係を認めるに足りない。〈証拠〉によれば、被控訴人は亡妻長谷川千代の代理人になつて本件土地を買受け、かつ本件仮登記を経由した後に本件土地の測量をすることになつた際、隣地の所有者である控訴人に立会を求めたところ、控訴人もまた本件土地を買受け引渡を受けてこれを占有しているものであることを知らされ、この時に二重売買の事実を確知するに至つたものと認められる。それ故控訴人の右主張はその前提事実を欠くもので理由がないので採用できない。

してみると、本件仮登記以後に権利移転の登記を経由した控訴人は、被控訴人の右仮登記にもとづく本登記手続について承諾を拒むことはできないものといわなければならない。

六右の次第であるから、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

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